クラフトファーができるまで。(4)【生地の延伸工程、糊付工程、毛割り等】
6月に入り、夏の気配と梅雨の便りが届きそうですね。
和歌山県にも紫陽花スポットが沢山ありますが、せっかくなので地元の橋本市でおすすめを。
「恋し野の里あじさい園」は5000株の紫陽花が6月10日頃から咲き始め、6月末頃まで楽しむことができますよ。
展望台やあずま屋、大きな池もあるのでゆっくりと幻想的な色とりどりの紫陽花を堪能。
他にも桜・紅葉・山茶花・寒椿等、季節の様々な植物が植えられているのでオールシーズン観光できる穴場です。
クラフトファーができるまで。(4)
今回が4回目となる連載中のクラフトファー(フェイクファー、エコファー)が生地になるまでの工程をお伝えします。生地としてはこの工程で仕上がりますが、後染め、柄物の場合はプリントという工程がこの後にも控えています。
おおまかな工程として以下の順に生地を作っていきます。
1.原糸の染色
2.糸繰り(かせ繰り、コーンアップ、糸巻き)
3.丸編み工程
4.テンターと呼ばれる生地の延伸工程、糊付工程を経て毛割り・シャーリング
5.生地へのプリント(後染め、柄物の場合)
前回は「丸編み工程」をベテランの辻本さんにお話を聞かせていただきました。
熟練の技で何台もの機械を操る姿はまさに職人!
糸がカラカラと巻き上げられて、生地となり編みあがっていくのは何度見てもワクワクするんですよね。
テンターと呼ばれる生地の延伸工程、糊付工程を経て毛割り・シャーリング
今回タイトルが長いので薄々感じているかも知れませんが、内容が非常に濃いです。
詳しくは繁忙期が過ぎる夏頃に、再度工程の詳細について連載予定といたしますので乞うご期待ください。
画像を見ていただくと分かり易いのですが、左の糸っぽさが残る生地が今回の工程で加工することで
右側のようなファーの風合いになります。
担当していただいているのは、地元の「アオイ整染工業株式会社」様です。
①コンピュータデザインシャーリング加工
高度な毛足加工技術でニーズに合せ色々な模様・図柄を演出。
②シープ加工
羊の毛並みのようなもこもことした風合いを出す。
③エンボシング ④熱処理加工 ⑤のり付け加工 ⑥つや出し加工 ⑦起毛加工等多彩な技術で加工をされています。
テンターから毛割り
テンターというのは機械の名前で、生地の両端(耳)を保持して一定の生地幅に整える作業工程の1つです。
私たちの間では「セット」(安定)させる。という風に呼ぶことが多いですね。
編みあがった生地は裏地がフニャフニャしており伸び縮みするので幅を安定させる事と毛抜け防止&静電気防止の
為に薬剤で糊付けしていきます。※生地の種類によります。
ほとんどの場合は約130〜140度の熱で機械を通し乾燥させるので、出てきた時はパリッとなっています。
そして、次に毛割り。
このイガイガを5回程度繰り返し通すことで毛割をしていきます。
毛割後の生地は糸っぽさが無くなり、綿状のようにふわふわっとした毛先になりますよ。
プリント生地(ヒョウ柄やバンビ柄等)の場合は毛割→プリント→毛割と2回この工程をしないといけないので
手間と時間をかけて作られているのがわかります。
ポリッシャー
シリンダーで熱を加えて、ツヤを出す工程をポリッシャーと呼びます。
上の画像のようにポリッシャー前の画像はツヤ感もなく、もさもさとしていますね。
本物のような毛皮、むしろそれ以上のクオリティーを出す為に風合いや質感を研究し生地によって
5〜10回程度繰り返します。
素材がウールの場合やツヤなしの生地の場合はこの工程は省きます。
シャーリング
まずこちらを見てください。
このねじれたカッターが付いたこちらの機械に生地を通して仕上げていきます。
この工程の説明の前にまず予備知識として、クラフトファー(フェイクファー、エコファー)は
「糸」から編まれています。
その「糸」というのも2〜4種類(生地による)のアクリルのブレンド比率を緻密に計算し1本の糸に紡績して編んで作られているのです。
何故かというと画像を見てもらうと分かるようにファーの毛先の長さや毛の太さというのは均一では
ないので、それを表現する為には糸の種類や太さを変えることが必要なのです。
シャーリングの機械に入れ熱を加えることにより、それぞれの素材が沈んだり、伸びたりします。
一番太いデニールが伸びてくるので、それをカットしたり。
機械を使いますが職人の技が光る工程でもあり、毛残し具合を熟練のカンと技で0.1ミリ単位で調節します。
ちなみに繊維を一律にカットするのは、ムートン調やヌートリア。
(※3Dフォックス)
毛残しをするのが代表的な生地でいうと、ミンクやフォックスといった長めのものになります。
生地によってはこの後もいくつかの工程に分かれて様々な風合いを表現していきますので
いくつか工程を紹介いたしますね。
タンブラー
タンブラーという風合いを柔らかく自然にする工程。
仕上がった生地は、本当にふわふわでずっと触っていたくなりますよ。
ガチャ
ノーマルのファー生地では使うことがないこちらの機械は「ガチャ」というのですが、名前の由来が
和歌山らしいというか、少しお恥ずかしいのですが「ガチャガチャ」という音がうるさいので「ガチャ」と
みんな呼んでいます。
ムートンシープボア(HK-330GT)等、粒感を出したい時にガチャで風合いをプラスしています。
機械の丸いところから水蒸気が出て四方八方ランダムに動くことで粒感を表現していきます。
設定によって縦の線を出したり粒感以外の時にも活躍してくます。
蒸気で型が付くのはアクリルの特性ですね。
高野口一の加工の魔術師
アオイ整染工業株式会社の二代目社長の高田さん。
とても気さくで優しく、丁寧に工程について詳しく教えてくれます。
今、高田さんがやっている作業は生地のシワ加工。
これぞまさに手仕事の極み!サクサクと生地をクシュクシュにしていくのですが見ているだけだと
意外と簡単なのかと錯覚するくらい早い。
少しだけ、ほんの出来心でやってみると…。
思った通りと言いますか、全くできない。
社長の高田さんがシワ加工をするのと社員の方がするのでも、倍以上時間差が出来てしまうそうです。
いつも見ているからといって簡単に出来るようなものではありませんでしたね。
中野メリヤス以外の高野口パイルでも、このシワ加工はとても重宝されていますよ。
作業をしている高田さんを見ていると久しぶりだった為か体型に違和感を感じたので聞いてみると
夏になると8キロほど痩せるそう。
今年は暑いのですでに痩せ始めていると笑って教えてくれました。
ヴィンテージチンチラは高田さんのシワ加工がされたクラフトファー(フェイクファー、エコファー)です。
使い込まれた味のある深い表情が特徴で、約1cmのストレートの生地にシワ加工を施しダメージ感をプラス。
是非、手に取って高田さんの手仕事に触れてみてほしいと思う逸品に仕上がっています。
仕上がった生地を専用の機械で、仕上がりを確認しながらロール状にし箱へ詰める作業。
実はこの作業は必ず社長である高田さん自らが行うという徹底ぶりで、生地への責任と情熱を感じました。
巻き取る機械の一部分がライトになっていて光を当てながら生地をチェックしていきます。
生地を送るモーターの強さを季節やその日の湿度や温度によって調整しながら巻いていくのですが、
メリヤス生地はそれだけではなく、編み物なので幅も一定しないという事も有り、より注意深く作業する必要が
あるそうです。
そういった細かいところまで気を遣って、最高の状態で仕上げてくれるのでいつも安心して生地を
お願いしています。
この後、箱詰めされ完成したクラフトファー(フェイクファー、エコファー)が中野メリヤスに届けられます。
まだプリント生地の工程は残っていますが基本の生地は地域の企業や人が協力することによってたくさんの工程を
経て完成しています。
手仕事を紡いでいくということ
トピックスを読んで、進化していく時代と逆行しているかのように感じる方もいらっしゃるかも知れません。
それでも私たちは、誇りを持ってこの産業を守っていき後世に伝えたいと考えています。
その為には、このままではいけないのかも知れないと悩む時ももちろんあって「答え」はまだ分かりませんし
海外で機械が進化していくなかで、我々の手仕事との差別化はできるのだろうか。
国内唯一の生産地である高野口(和歌山県橋本市)の地場産業は衰退していくだけなのか。
マイナスなところを見てばかりでは解決しないので「求めてくれる方がいる限り作り続けたい」という想いと
「求めてくれる方を増やしていくこと」は常に念頭に置いておこうと考えています。
「クラフトファーができるまで」は残り、5.生地へのプリント(後染め、柄物の場合)となりますが
次回は先日、山形から佐藤繊維さんが和歌山まで来てくださって破天荒な人生や地場産業について語ってくださった内容をトピックスでお伝えしますね。
糸を作るという地場産業だけでなく、様々な分野でも活躍しており非常に学びがありました。
ひとまず、トピックスの為に撮影とインタビューに協力していただいた皆様、本当にありがとうございました。
そしてこの長文トピックスを読んでいただいた皆様にも感謝しております。